Love Eater
今、俺叫んだよな?
確かに言葉にしたよな?
でも、なんか耳に聞こえたのはなんていうか……。
そんな疑問と戸惑いを頭に、いつの間にか閉じてしまっていた目蓋をパチリと開いて周りを見渡す。
ぼやける視界に捉えるのはさっきとなんら変わらない薄暗い裏路地である事は確か。
体調不良も都合よく消えたなんて変化はないし。
でも、なんか違和感。
なんていうかこう……。
と、自分の違和感の正体を確める様な素振りで、視線を掌に向けただけのつもりであった次の瞬間の衝撃。
『っ……な………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!』
と、もしソルトの声がまともなものであったのであれば、そんな驚愕の叫びが裏路地いっぱいに反響していただろう。
でも実際反響したのは『アォォォォーン』なんて言う犬の遠吠えと言える響きで。
当然跳ね返ったそれはソルト本人の耳にも届いていたのだが、ソルトの衝撃は聴覚よりも視覚が強であるらしい。
それも当然のはず。
視界に捉えたのは見慣れた自分の両手ではなく、ふさふさフワフワ白金と言える毛並みの手足に薄ピンクの肉球。
慌てて他の部位にも視線を走らせてみるけれど、どの場所も立派で毛並みの良い体毛に包まれ尻尾まで。
この時点でようやく思いついたようにその声を発してみれば、
「ア、アォン?」
虚しくも犬の声のみが自分の耳へと届いてくるのだ。
まあ、正確には……狼なのだけども。