part-time lover
「あずさちゃんは今大学生?」
乾杯を済ませた後に口を開いたのは彼の方だった。
「はい。就活が終わったばっかりで。バイトもまだ見つけられてないので、時間はあるんですけど金銭的に少し厳しくて」
いつも決まった返しをするから、このセリフはだいぶ流暢に言えるようになっていた。
「そうなんだね。就活お疲れ様。どんな仕事に就くの?」
「金融系の事務職です。メガバンクの大量採用の恩恵にあやかりました」
「メガバンクなんだ、すごいね」
「ケイさんはお仕事何されてるんですか」
「編集者。わりと仕事が終わる時間も読めないから、仕事帰りに誰かと予定合わせて飲んだりとかできなくて。今日は打ち合わせが思いの外早く片付いたから、こんな風にあずさちゃんと飲めてよかった」
そんなことを言ってにこっと笑う目尻のシワがセクシーだなと思った。
「こちらこそ。素敵な方とお会いできてよかったです」
その後彼氏の有無や趣味など当たり障りないことを話し終わったタイミングで、ちょうどよく彼が2本目のビールを飲み干していた。
「先にシャワー浴びてきてもいいかな」
「あ、はい」
思いのほか彼が話しやすかったので、本来の目的を少し忘れかけていた自分に気づく。
貴重品を持ってお風呂場に向かう彼を見て一気に現実に引き戻された。