稲荷と神の縁結び

*****

時刻はもう昼の二時。

マスコミの波が落ち着いたので、対応に追われた両親は小休止中。私は境内に誰も居なくなった隙に、掃除をすることにした。

箒を持って外に出ると……がらんとした境内に、焼き焦げた鳥居。
一回り小さくなったように、脆くなった柱に…あの朱色だった色は、見る影もなく真っ黒に変わっている。


未だに……これは夢なのではないか。やっぱりそう思ってしまうが、いくら頬をつねっても痛いだけだった。



はぁとため息をついて掃除にかかるが、予想以上にゴミが多い。
父親からの情報では、この騒ぎもあって「朝は近所のボランティアが掃除してくれた」そうだが……なんせあのマスコミの波なので、ゴミが出るのも致し方ない。
来客までには綺麗にしておきたいなぁと思いながら、私はひたすら無心で箒を振り回すことにした。


「…………はるちゃん?こはるちゃん?」


ふいに呼ばれたことに気付いて顔を上げると‐意外な人が立っていた。


「和茂さん……」

ふんわりと、しなやかな笑みを浮かべているのは‐あの正月の騒動以来に会う和茂さんだった。
< 197 / 233 >

この作品をシェア

pagetop