稲荷と神の縁結び
遠ざかっていく和茂さんをぼんやりと見つめていると‐再び名前が呼ばれる

「こはる」

「き、清貴さん…………」


清貴さんはゆっくりと私に近付いてくる。


「あの、何で清貴さんが………」

「お前電話ぐらい出ろ。何回かけたと思ってる?」

「……………あっ」


そう言えば…昨日の夜から、携帯をしまったまま一切見ていなかったことを思い出した。


「すいません…色々忙しくて………」

「連絡ぐらいは入れろ。心配するだろ」


清貴さんは目の前に立ち、私を見下ろしている。
その顔を見ていると‐あの昨日の夜のことが、脳裏を掠める。


酔っ払っていたとはいえ…唇が触れそうな程、迫ってくる顔。
不意に脳裏に浮かび、私は顔を背けた。


「ホントに…すいません………」

恥ずかしさが込み上げて、私は直視ができない。


「それで、あの人は?」

「氏子の人で…釜谷さんと言う人の息子さんで………昔からの付き合いがある人で………」


チラッと流し目で清貴さんを見ると‐視線が下の方にきていることに気付く。
その視線を追うと、私の手元。
私が手にしているものは……そう。あの最中の紙袋。
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