稲荷と神の縁結び
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ぼんやりとした意識の中‐何かが頬に触れた。
何だろう……何だかくすぐったい……?
でも暖かくて、心地が良い感覚がする。
「こはる」
甘ったるくて…優しい声の誰かが、私の名前を呼んでいる。
誰だっけなぁ、聞き覚えがあるんだけれど。
あぁ、そうだ。
清貴さんに声が似ているんだ。
清貴さん………?清貴さん…………
「はっ!!!」
一瞬にして正気を取り戻し、ガバッと勢いよく起きる。
辺りを見回すと…ここは自分の部屋だということがわかった。
「こはる」
さっきと同じ声だけど…さっきよりもドスッと重たい声がする。
そう、これがいつも聞いている声だ。
「清貴、さん………」
清貴さんは布団の隣に、胡座をかいて座っている。
相変わらず紋付き袴姿には、迫力しか感じられない。
「お前なぁ…心配かけさせんな!」
「す、すいません……」
「まったく…本人不在の結納なんか聞いたとないわ」
「そうですよ、ね……ってえええ!!」
私はついさっきのことを鮮明に思い出した。
目の前に積まれた二百万円。
清貴さんはこれを結納金として、私と結婚させてくださいと、確かに言った。