偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「せっかくのお話ですが――」
「川久保製薬の専務がいつまで、おひとりでいらっしゃるつもり? 今回の方だけじゃなくて、わたくしのところに紹介して欲しいとおっしゃる方がたくさんいらっしゃるのよ。煩わしいならば、早いうちに身を固めておしまいなさい」
ほほほっと女性は甲高い声で笑う。
固まったまま動けないわたしは、個室の中の様子を見続けている。すると尊さんがこちらに視線を向けた。しっかりと目が合うと「那夕子」とわたしの名を呼び立ち上がった。
それがまるで合図かなにかのようだった。わたしははじかれたように踵を返すと、レストランの出口から外に出た。
足早に家に向かう。こんなふうに逃げ出したところで、帰る場所は一緒なのに何がしたいのか自分でも分からない。
けれどあの瞬間に、あの場所にいることが耐えられなかった。ただ逃げることだけを考えた結果だ。
頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えずに、がむしゃらに歩く。
後ろから足音が近付いてきた。振り向くと同時に手を掴まれる。
「川久保製薬の専務がいつまで、おひとりでいらっしゃるつもり? 今回の方だけじゃなくて、わたくしのところに紹介して欲しいとおっしゃる方がたくさんいらっしゃるのよ。煩わしいならば、早いうちに身を固めておしまいなさい」
ほほほっと女性は甲高い声で笑う。
固まったまま動けないわたしは、個室の中の様子を見続けている。すると尊さんがこちらに視線を向けた。しっかりと目が合うと「那夕子」とわたしの名を呼び立ち上がった。
それがまるで合図かなにかのようだった。わたしははじかれたように踵を返すと、レストランの出口から外に出た。
足早に家に向かう。こんなふうに逃げ出したところで、帰る場所は一緒なのに何がしたいのか自分でも分からない。
けれどあの瞬間に、あの場所にいることが耐えられなかった。ただ逃げることだけを考えた結果だ。
頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えずに、がむしゃらに歩く。
後ろから足音が近付いてきた。振り向くと同時に手を掴まれる。