偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
しばらくして赤ワインで乾杯する。重めの渋い味わいだったが、料理とのマリアージュは絶品で、食事もお酒もすすんだ。
時折お互い視線を絡ませながらする食事は、いつもの自宅でのものとは違い、特別でくすぐったい。穏やかで楽しい時間が過ぎていく。
「美味しい? これからデザートだけど大丈夫?」
「はい、別腹なんで。すごく楽しみです!」
その宣言通り、しっかりとデザートと紅茶をいただいたわたしは、お手洗いに向かう。結構飲んだせいで、赤くなっていた。少しだけ化粧直しをして席に戻ろうとすると個室の中から声が聞こえた。知らない女性の声だ。
お知り合い……なのかな?
ここの常連である彼なら、ばったりと知り合いに会うこともあるだろう。このまま中に入っていいのかためらっていると、中の会話が漏れ聞こえてきた。
「川久保さん、先日お送りしたお見合いの釣書、ご覧になりましたか?」
お見合い? 尊さんが……?
指先からすっと冷えていく感覚がする。そのまま固まってしまい、その場を離れることができなくなってしまった。
否が応でも中の話を聞いてしまう。
「いえ、その件はお断りさせていただきました」
「あら、ダメよ。あんないいお話断るなんて。官房長官のお孫さんよ。美人で気立てが良くて、川久保さんとすごくお似合いだと思う」
官房長官のお孫さん……。きっと素敵な人なんだろうな。
自分が何も持っていないことを、突きつけられたような気がした。