偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「では、おばあ様。そろそろ那夕子を僕に返してもらいましょうか」

 それまでわたしたちのやり取りを黙って聞いていた尊さんが、いきなり口を開いた。

「尊さん?」

 戸惑うわたしをほうって、おばあ様と話を進める。

「せっかくの遠出なので、おばあ様たちと同じように、夫婦の思い出を作りたいのですが、いいでしょうか?」

 尊さんの言葉に、おばあ様は「あら、まあ」と目を丸くして、クスクス笑い出した。

「そうしなさい。老いぼれは気が利かなくてすみませんね。秋江さん、こちらに」

 尊さんに代わって、秋江さんが車いすの後ろに立った。

「あの、おばあ様? 尊さん?」

 あれよあれよと話が進んでいく。

「わたくしたちは、あの茶屋でお抹茶をいただきます。那夕子さん、普段は甘えられない分、今日はたっぷり尊にわがままを言うといいですよ」

「それは怖いな。手加減してくれる? 那夕子」

「そんな……!」

 秋江さんに車いすを押してもらい、おばあ様はわたしたちに手を振りながら行ってしまった。
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