偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「なに、のんびりしてるんですか。追いかけないと」
「追いかけるって、どうやって? まさか走るつもり?」
「それは、無理かも」
そうだ、今更追いかけたところでどうしようもない。
「では、行きましょうか」
「はい。駅が近くにあるといいんですけど」
車がないので、公共交通機関を使うほかない。最寄りの駅まではどのくらいの距離だろうか。
スマートフォンを取り出し調べようとしたわたしの手を、尊さんが止めた。
「那夕子、祖母の書いた手紙をきちんと読んだ? ここ」
尊さんが、紙を指さす。わたしはそこを目で追った。
「……部屋……夫婦水入らず……これって」
視線を紙から尊さんに移す。彼はじっとわたしの方を見ていた。
「那夕子が嫌じゃなければ、どうかな?」
口調はとてもやさしい。けれど向けられる視線は真剣そのもの。