偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
おばあ様たちと別れた茶店の前に戻ってきた。あれから小一時間ほど経過してしまっていた。茶店の中を見回して見たが、ふたりの姿がない。
「あれ、どこに行ってしまわれたのでしょうか?」
外に出てしまったのかもしれない。探しに行こうとしたわたしに、店の女性が声をかけてきた。
「あの。川久保さまですか?」
尊さんがうなずくと、女性は封筒を差しだした。
「これを、先ほどこちらにいらっしゃった方から預かりました」
「ありがとうございます」
尊さんはお礼を言うと、すぐに封筒の中身を取り出す。
そして紙に素早く視線を走らせると「やられた」とつぶやいて、天井を仰いだ。
「な、なにがあったんですか?」
焦って尋ねたわたしに、彼が紙を差しだした。それを受け取りすぐに確認する。
「え……これって」
「ああ。僕たちはあのふたりに置き去りにされたみたいだ」
おばあ様のしたためた手紙には、秋江さんの運転で先に帰ること。この近くにある旅館に部屋を取ったので、夫婦水入らずで楽しんでくるようにと、書いてあった。