偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
ついさきほど、本当にほんの少し前に、お互いの思いを通い合わせたばかりだ。だから急に宿泊となるとハードルが高い……。
けれどよく考えてみれば、いつも同じ屋根の下で寝起きしているのだから、そこまで意識するのも逆におかしい?
わたしがなんだかすごく期待しているみたいじゃない?
「あれこれ考えているようだけど。無理にとは言わない。けれど僕としては、君とのふたりきりの時間がもう少し続けばいいと思ってる」
絡められた指に、わずかに力がこもった。その行為が彼に乞われているように思えた。
「嫌じゃないです。わたしももう少し、尊さんと一緒にいたいです」
それまで真剣だった彼の表情が、崩れた。口角を上げて笑う。
「よかった。君も僕と同じ気持ちで。では行こうか」
手を引き歩き出した。彼はすでに行先がわかっているようだ。ざぐざぐと砂利道を歩く彼の足どりが先ほど歩いていたときよりも、若干早いような気がする。
わたしも彼に合わせてついていっていたが……。
「あっ!」
砂利に足をとられて、うっかりつまずいてしまう。ポスンと尊さんに抱きとめられた。