偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「どうかなさいましたか?」
様子の急変にベンチから立ち上がり、女性の車椅子に駆け寄る。
「ん、あ……」
苦しそうに眉根を寄せて、呼吸も荒い。
わたしは女性の腕を取りバイタルの確認をしながら、秋江さんと呼ばれた女性の方を見る。
するとちょうどたい焼きを買い終え、こちらを振り向いた。
「お、奥様っ!」
手に持っていた包みをその場にボトンと落とすと、すぐにこちらに走ってきた。
「お話をしていたら急に苦しみだして、持病がおありですか?」
「えぇ……心臓が……あぁ、どうしましょう」
秋江さんは、女性の姿を見てパニックを起こしているようだ。
「すぐに救急車を呼んでください」
わたしの言葉にうなずくと、秋江さんはバッグから携帯電話を取りだしてかけ始めた。
「大丈夫ですからね。落ち着いてくださいね」
脈を取ろうとして腕を持っていたわたしの手を、女性が強く握りしめる。少しでも苦しみが紛れるようにと、その手に自分の手を重ねて励ます。
「もうすぐ救急車がきます。わたし看護師なんですよ。だから大丈夫ですから」
大丈夫とは言ったけれど、本当はわたしだってこんな状態の患者さんにひとりで対処するのは怖い。しかしわたしは看護師なのだ。できる限りのことはしたい。
背中をさすり、声をかけていると車椅子にかかってあったバッグから『三島紀念病院』と書かれた薬の袋が見えた。