偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 すぐに手にとり、中身を確認する。

「これ……」

 心臓病の薬だった。どうやら女性は狭心症を患っているらしい。

 一緒にあった薬剤情報の用紙を確認して、一粒取り出し女性の口元に持って行く。

「これを舌の下でとかしてください。落ち着いてゆっくり」

 女性が小さく口を開けたのを見て、わたしは彼女の舌下に薬を差し入れた。

 わたしの言ったことを聞いて、女性はゆっくりと口の中で薬を溶かしているようだ。

 ちゃんと薬が効けば一、二分で良くなるはず。

 わたしは腕時計を確認しながら彼女の様子を窺う。

「救急車、すぐに来るそうです」

「わかりました。とりあえず、バッグにあったお薬を飲んでもらっています。これで良くなるといいんですが」

「あの……わたし、奥様のお病気のことはよくわからなくて……」

 オロオロとする秋江さんに「大丈夫ですから」となだめて、女性の様子を窺う。

 川久保豊美(かわくぼとよみ)さん……薬の袋に記されていた名前を見て、声を掛ける。

「川久保さん、いかがですか? すぐに救急車が来ますからね」

「はぁ……はぁ、すみません……」

 幾分呼吸が楽になったのか、言葉を発する様子を見てわたしはほっと胸をなで下ろした。

 よかった……薬がちゃんと効いたみたいで。
< 14 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop