偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~


 せめて彼に恥をかかさないようにしなくては。

 背筋を伸ばして少しでも凛と見えるように努めた。そんなわたしを支えてくれているのは、隣にいる尊さんはもちろんのこと、彼の選んでくれたドレスもわたしに力を貸してくれていた。

 普段は絶対選ばない、肩を出すタイプのオフショルダードレス。スカートはフィッシュテールになっていて動くたびに軽やかに揺れる。形は華やかだけれど、シルバーグレーという落ち着いた色のおかげで、とても上品だ。

 おしゃれや恋愛において、自信なんてない。

 ひどい失恋をした後それが余計顕著になっていた。けれど、そんなわたしを認めて、好きになってくれた尊さんのためにも、今日はがんばりたいと思った。

 いや、本当は自分のためだったのかもしれない。彼のパートナーだとまわりに認めてもらいたい。自分の存在意義を実感したかったのかもしれない。

 理由はどうであれ、自分にできる精一杯のことをしよう。そう思いできるだけ笑顔を絶やさずに、彼の隣にいるように努めた。

 次々に挨拶を交わす。こんなにたくさんの初対面の人と接するのは生まれて初めてだ。

 本日の主役、建設会社の会長だと紹介された人物と、話をしているときだった。

「いや、おどろいたな。川久保くんが秘書以外の女性と一緒にいるなんて、はじめてじゃないのか?」

 珍しそうにわたしを見る目には少し困惑した。けれど心の中で思わずにやけてしまった。

 彼がこういったオフィシャルな場につれてくるような人はいなかったという事実。彼がわたしを特別扱いしてくれていることに、小さな優越感を感じた。
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