偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 しかし慣れない場所で慣れない格好をしていると、頑張っていても疲れは出てしまう。気づかれないように笑みを浮かべていたけれど、尊さんはお見通しだったようだ。

「我慢強いのは那夕子の良いところだけど、僕には甘えて欲しい。ここで少し休憩していて」

 優しく手を引かれてバルコニーにあるテラスのソファにエスコートしてくれる。わたしが座ると、近くにいるホテルのウェイターからワイングラスを受け取りわたしに手渡す。

「まだ少し挨拶をしないといけないから、行ってくる」

彼はすぐに会場に戻ろうとした。

「わたしも、一緒に行きますよ」

 そのために、ここに来たのに。ゆっくり休憩なんてしていられない。

「ダメだ。那夕子は僕のわがままに十分つきあってくれた。だから少し休憩して、この後のふたりの時間のために体力を温存していて」

 尊さんは目を細めると、長い指でゆっくりとわたしの頬を撫でる。

 視線と声色がやけに色っぽくて、この後のことを想像させるには十分で……。

「わかりました。ここで、大人しくしています」

「いい子だ。さっさと面倒なことは終わらせてくる」

 ほほ笑む尊さんを見送って、わたしは手元の白ワインをひとくち飲み、ほっと一息ついた。

 わずかに頬に感じる風が、つめたくて心地よい。パーティの喧噪から離れ、目を閉じて深く息を吸い込む。

 もっと頑張れると思っていたけれど、思っていたよりも疲れていたみたいだ。慣れないヒールでつま先もふくらはぎも痛いし、もしかしたら笑顔が引きつっていたのかもしれない。
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