偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「いや、今は特別。少し……トラブルがあってね」

「そうなんですね、早く解決するといいですね」

 内容を聞いてもきっと分からないだろう。それに守秘義務もある。

 だからもどかしいけれど、心配することしかできない。それでも堂々と心配出来るのはうれしい。

 尊さんが食べ終えた食器を流しまで運ぶ。スポンジに洗剤をつけ洗おうとすると、彼が止めた。

「これを使えばいいじゃないか」

 ビルトインの食洗機。これもまた寝に帰るだけの部屋に不似合いな立派なものだ。

「食器がこれだけなのに、もったいないです」

 わたしの言葉を無視して、尊さんはさっさとお皿を中に入れてしまう。

「ただでさえ、那夕子の手は酷使されているんだから。それに君には他の大切な仕事があるからね」

「中村先生のところの仕事は明日はお休みですよ?」

 手を動かし続ける尊さんの顔をのぞき込む。

 するとクスクスと楽しそうに笑った。

「そうじゃない」

 言うな否や、わたしの頬に小さなキスをした。

 ああ、そういうこと。

 すぐに彼の意図がわかってしまう程度には、ふたりの関係は進んでいる。
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