偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「……わかりました」
下手な返事をしてしまうと、すごく期待しているように思われそうで一言で返す。
赤い頬と緩んだ口もとで、わたしの気持ちはバレバレにちがいないのだけれど。
「この部屋、本当に味気ないと思ってたけど、那夕子とところ構わずいちゃつけると思うと、持っていてよかったと思う……っと」
「きゃあ!」
いきなり抱き上げられて体が浮いた。
驚いた顔のわたしを見た尊さんは「してやったり」といった顔だ。
「もうご自宅でだって、十分いちゃついていると思うんですけど」
おばあ様を安心させるためだとかなんとかいって、彼は常にかりそめの妻であり恋人でもあるわたしをめいいっぱい甘やかしている。
「それはそれ、これはこれ……と、いうことで」
おかしそうに肩をふるわせる彼の首に、わたしは自分の腕を回した。
彼の力強い腕は安心感とトキメキを与えてくれる。
わたしのこの手は、彼に何を与えられるだろうか。
ふとそんなことを考えていると……。
「では、まずはバスルームへ行こうか。那夕子」
さっさと歩き出した尊さんが、ありえないことを言い出した。
「ちょ、ちょっとそれは無理かも」
「いいえ。しっかりと新妻としての務めを果たしてもらわないと。めいいっぱい、ね?」
笑った尊さんの目の奥に、甘い熱を感じた。