偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
病院の裏口から出たわたしの笑顔は、次の瞬間に消えてしまった。わたしの行く手に、翔太が立っていたのだ。
すでに私服ということは、今日の勤務は終えたらしい。
「俺に会いに来たのに、会わずに帰るのか?」
いったいなにを言っているのだろう。思い上がりも甚だしい。
そう思ったものの、言葉にはせずに――顔には出ていたかもしれないけれど――できるだけ冷静にふるまった。
「安心して、あなたに会いにきたわけじゃないから。少し用事があっただけ」
これ以上話をしていて職員の誰かに見られたら、変な噂が立ってしまうかもしれない。女性の多い職場なので、この手の話は光の速さよりも早く伝わる。
別に辞めってしまったのだからどうでもいいとも思うけれど、それでも根も葉もない噂話で傷つく人もいると思うと、やはりさっさとこの場から離れた方が賢明だ。
翔太の横を通りすぎようとしたとき、ぐいっと腕を掴まれた。
「痛いっ」
思いきりつかまれて、思わず痛みで顔をゆがめる。
「強がるのも、たいがいにしろよ。そういうところが可愛くないんだ」
「離して、なに言って……痛い」
さらに腕に力を込められた。彼の顔には怖いくらいの怒りが込められていた。
「いい加減、俺がいないとダメだって認めろ。仕事も家もないそんな状態で、どうするつもりなんだ」
こいう状況に追い込んだ張本人がよく言う。ますます彼の言葉に反感を抱いた。
わたしは絶対に屈するつもりなく、彼を思いきり睨みつけた。
「何度も言ってるけれど、わたしはあなたとよりを戻すつもりはないの」
「戻すもなにも、俺は別れたつもりはない」
きっぱりと言い切った。顔を見るとどうやら本気らしい。