偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
 それから数分後。

「たしかに、あなたの行きたいところでいいとはいいましたが……」

 川久保さんとわたしが並んで座っているのは、狭いラーメン屋さんのカウンターだった。

「実はここにずっと来たいと思っていたんですよ。いつも待っている人がたくさんいて今日はすぐに入れてラッキーでしたね」

 出されたおしぼりで手を拭きながら、壁にかけてあるメニューを見てお互いオーダーをすませた。

「いや、あのしかしこんなところでいいのですか? 僕はもっとちゃんとした店で――」

 ――ゴホン。

 川久保さんの声を遮ったのは、カウンターの中で作業をしている店主だ。

 彼自身店を悪く言うつもりはなかったのだろうけれど、ふたりで小さく頭をさげて謝罪した。

 そりゃそうだ。店主にとっては自慢の店だもの。

 チラリと隣を見ると、川久保さんも居心地が悪そうな顔をして頭をかいていた。

 お互いの目が合う。ぼそっと「まいったな」と小さな声でつぶやいた彼の表情がなんだかおかしくて、わたしは「ぷっ」と吹き出してしまった。

 我慢しようと思い、口元に手を当てて堪えた。けれど、こみ上げてくる笑いはどうしようもなく、肩をふるわせていたら、それを見た川久保さんも同じように吹き出した。

 お互い笑いとなんとか納めた。それなのに、また目が合ってしまうと笑い出してしまい……もうなにがそんなにおかしかったのか分からない。
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