偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「と、いうことですので、わたしはこれで失礼します。助けていただいてありがとうございました!」
恥ずかしさに耐えきれずに脱兎のごとく逃げだそうとしたのに、それはあっけなく阻まれてしまう。
歩きだそうとしたわたしの手を、彼が掴んだのだ。
「待ってください。祖母の命の恩人を、空腹で返すわけにはいきません。食事に行きましょう」
「え? そんな……お気遣いいただかなくて結構ですから」
人として、看護師として当り前のことをしただけだ。
「今あなたを帰したら、私が祖母に怒られてしまう。ああ見えてめちゃくちゃ怖いんですよ」
ずいぶん立派で紳士な川久保さんが、品のよさそうなおばあ様に怒られている姿を想像してしまい、思わず笑いそうになってしまった。
「つき合ってくれますよね?」
いたずらっ子が遊びに誘うような態度に、わたしは思わずうなずいてしまった。
「じゃあ、わたしの行きたいところでいいですか?」
「もちろん」
川久保さんが笑顔でうなずいた顔がやっぱり素敵すぎて、直視できずに顔をそらした。
そしてそのままわたしたちは駅の方角へと歩きはじめた。