偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
 これって本当に、個人のお宅なの?

 こんなのは映画やドラマなどの物語にしか存在しないと思っていた。豪奢な雰囲気に呆気にとられてしまう。

「古くて驚いたでしょう?」

「い、いえ!」

 あまりにもジロジロと見すぎていて、誤解を与えたのだろうか。

 わたしは慌てて、目の前で両手を振って否定する。

「中はね、色々住みやすいようにリフォームしているからそこまで不便はないんだけど、祖母が思い出のつまったこの家を大切にしてるんだ」

「素敵ですね」

 部屋に飾られているなにもかもが大切にされてきたのだろう。どれも長い間愛されてきたのがわかる。見ているとそう思えた。

「さっそくですが、祖母がお待ちかねです」

 わたしを車に乗せる前に連絡を入れておいたのだと説明された。

 えんじ色の絨毯を歩きホールを抜ける。先に長い廊下があり突き当りの窓からは日が燦燦と差し込んでいた。

 なんだかうっかり自分にそぐわない場所に迷い込んでしまったような気がして落ち着かない。

 目の前の重厚なドアをノックしながら、川久保さんが中に向かって声をかけた。

「おばあ様、尊です。小沢さんをおつれしました」

「入りなさい」

 彼がゆっくりと扉を開け、わたしの背中をそっと押して中へと促してくれた。

 どうやらここは応接室ではなく、おばあ様の私室のようだ。奥には大きなベッドが置かれていて、飾り棚にはアンティークドールが飾ってある。

 中へ入ると、ソファに座っていたおばあ様が立ち上がってこちらに歩いてきた。

その足取りはゆっくりだがしっかりしていて、血色もよい。

 目の前にやってきたおばあ様に両手をぎゅっと握られた。
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