偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「あの! これお見舞いです。あの日食べられなかったから」

 わたしが差し出した紙袋を受け取ったおばあさまが、中身を確認する。

「あら、たい焼き! いいわね。あの日食べ損ねて、残念に思っていたのよ。早速いただくことにしましょう。秋江さーん!」

 呼ばれて中に入ってきた秋江さんは、わたしの顔を見ると笑顔になり会釈をしてくれた。わたしも慌てて頭を下げる。

「秋江さん、那夕子さんがたい焼きを買ってきてくれたのよ。お茶を淹れてくださる?」

「はい、かしこまりました。奥様」

 秋江さんはたい焼きをもって部屋を出ていく。その姿を見送りながらふと疑問がわいた。

 今わたし、那夕子さんって呼ばれた?

 名前は看護師から聞いて知っていたのかもしれない。それでもまだまともに話をしていないのに、下の名前で呼ばれるのに違和感があった。

 まぁ、別に嫌なわけじゃないし……もともとフレンドリーな性格なのかも。

 おばあ様のひとなつっこい雰囲気から、勝手にそういうふうに想像して納得した。
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