偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「さてと……」

 パンパンと手を叩き、好きに使っていいと言われた寝室を見渡した。持ってきた荷物を片付けると、広い部屋がガランとして見える。

もともと荷物なんてあってないようなものだった。翔太と暮らしていたマンションの家具は、わたしが買ったものもあったけれど、引越しの際に持って出ようと思うほどの愛着がなかった。翔太にいらなければ処分してもらうように置手紙をした。

 着替えと化粧品、少しの雑貨とタブレット。たったこれだけだ。一時間も経たないうちに、引越しの片づけは終わってしまった。

 そうなってくると、途端に手持無沙汰になる。

 尊さんからは『今日はゆっくりするように』と言われたけれど、もともと忙しくしている方が好きなので、落ち着かない。

 仕事も部屋も得られた今、昨日までのようにあちこち出歩く必要もない。仕事に打ち込んできたせいで、これといって夢中になれる趣味もない。

 本来の自分の仕事――おばあ様のお手伝いに……と思ったけれど、尊さんから教えてもらったおばあ様の一日のルーティンから考えると、この時間は部屋で静かに過ごされているとのこと。病人の安静を邪魔するべきではない。

「秋江さんに、なにか手伝えることがないか聞いてみよう」

 時間を持て余したわたしは、結局秋江さんを頼ることにした。

 母屋に向かい、台所のあたりに秋江さんがいるのではないかとキョロキョロしながら歩く。
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