偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「ああ。頑張るよ」

 玄関ホールのはめ込み窓から差し込む光が、尊さんをまぶしく照らした。ふんわりと笑った後、背をかがめてわたしの頬に口づけをした。

「……っ!」

 目を見開いて、一歩後ずさろうとするわたしの耳元で彼がささやく。

「祖母が階段の上から見ているんだ。このまま続けて」

 うそ……そうなの?

 さっきまでキスでドキドキしていたはずの心臓が、キュッと縮んだ気がした。

 彼はゆっくりと体を起こすと、わたしの髪をそっと撫でた。

「いってきます」

「いっ……ってらっしゃい」

 見られていると思うと緊張してしまい、声が掠れた。

 尊さんはクスクスと笑った後、扉を開けて出ていく。「早く帰ってくるから」と満面の笑みで、本当の旦那さまのような言葉を残して、出社した。

 彼が乗り込んだ車を見送ると、身体から力が抜けた。

 はぁあああ。朝から疲れた。

 一仕事終えたかのような疲労感を持ち、振り返る。階段の上では、おばあ様と秋江さんがこちらを見てニコニコとほほ笑んでいる姿があった。

「お見送りご苦労様」

「いえ、元気に出勤なされてなによりです」

 なんて言えば嫁として正解? さぐりさぐり口にする。

「当たり前でしょう。かわいい妻の見送りがあるのですからね。ほほほ」

 そう言いながら部屋へ戻っていく姿を見て、なんとかここは乗り切れたのだとほっとした。

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