偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 彼女がこの家の家事や雑事を取り仕切っていると聞いた。時代が時代なら女中頭といったところだろうか。彼女に聞けば、きっとなにか仕事があるに違いない。

 廊下を歩いていると、大きな桜の枝を抱えた女性が歩いてきた。見るからに大変そうに見える。

「あの、もしよろしければお手伝いしましょうか?」

 見かねて声をかける。

「ありがとうございます。アルバイトの子が休んで大変だったんですよ」

 わたしに花を渡しながら言った女性は、出入りの花屋さんだった。この屋敷にある花を週に一回ほど入れ替えに来ているらしい。ちなみに立派な庭も彼女の父親が手入れをしているとのことだ。

 二階にある廊下の突き当り。そこには大きな花瓶があり、今はミモザの花を中心とした鮮やかで豪華な装花が飾られていた。それを台座から下ろし、別の花器へ取り替えた。

「やっと奥様の大好きな桜が花をつけ始めたので、早速持ってきました」

「少しピンクが濃いですね」

「ええ、これは河津桜と言って比較的早咲きの品種なんです。三月から四月にかけては、色々な桜の花をお持ちするんです。奥様が大変喜ばれるので。今年は大分早めに手にはいったので、喜んでくださるといいのですが」

 彼女は話をしながらも、てきぱきと花を活けていく。

 こういった芸術的センスが皆無のわたしだが、いちから作品を作り上げていく姿を近くで見てその素晴らしさに圧倒される。

 少しでもお手伝いをと思い、散った花びらや枝、新聞紙などを片付けていると、廊下の向こうから白いエプロンをつけた秋江さんが焦った様子でこちらに来る姿が見えた。

「な、那夕子さまっ! そこでいったいなにをなさっているのですか?」

 秋江さんがどうしてそんなに焦っているのかがわからなくて、ほうきを持ったままキョトンとしてしまう。
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