キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 カップを掴むと、お兄さんはその手をなかなか離してくれない。軽くカップを引っ張ってみるけれどビクともせず、困惑気味にお兄さんを見上げた。

「あ、あのー……」

 カップを離してくださーい。

 女の子がわんさかいるこのビーチで、イケメンの彼がひとりぼっちになったら大変なことになる。だから早く宙斗くんの無事を確かめたいのだけれど、お兄さんはニコニコしたまま手を離してくれる気配がない。

「俺、もう少しでバイトが休憩なんだよね」

「はぁ」

 だからなんなんだ、私は急いでるのに! 

 でも突き放すわけにもいかないし、こんなときに限って他のお客さんも来ない。とりあえず話を聞くしかなさそうだ。私はついてないなぁと落ち込みながら、腹をくくってお兄さんの言葉を待つ。

「あと十分待っててくれたら、俺と海に入ろ──」

「入らないです」

 ──え?

 答えたのは、私じゃない男の人の声だった。私の背後から伸びた手が、かき氷のカップをむんずと掴む。振り返ると、見慣れたサラサラの黒髪に目鼻立ちのきりっとしたイケメンがいた。

「宙斗くん!?」

「お前……探し回っただろうが」

 ギロリと睨まれて、私はすぐさま「すみません」と謝った。

 だって、顔が怖いんだもん!

 私は夏なのに寒気を感じて腕を摩ると、かき氷屋さんのお兄さんに向き直ってペコリと頭を下げる。

    

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