キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 ああ、呼べなかったんだ、女の子の名前だから。

 事情を知っている私が、密かに苦笑いを浮かべていると……。

「彼女以外の名前は、苗字で呼ぶことにしてるから」

「ええっ」

 脳天に鉄拳が落ちてきたような衝撃。宙斗くんから突然の彼女扱いに、驚きの声を上げてしまう。

 もちろんこれは、女子を名前で呼びたくないからだってわかってる。宙斗くんは偽装カップルを利用して、厄――女子を遠ざけようとしただけだ。喜んじゃ、駄目なんだよね。

 悶々としていると、楓が顔をのぞき込んでくる。

「飛鳥がなんで驚くんだよ」

「え、おおおおおっ、驚いてないよ!」

「つうか、動揺してね?」

「してない!」

 バシッと目の前の楓の頭を引っぱたく。

 あ、動揺のあまり手が出ちゃった。

「いってぇーなっ、こんな暴力女でいいわけ? 宙斗」

 頭をさすりながらニヤッとからかうように言う楓。お願いだから、余計なことを言わないでほしい。いつ宙斗くんの気分が変わってしまうか、わからないんだから。

「いや、無理――」

「わーっ! 大好きだよね、私のこと!」

 今、絶対無理って言おうとしたでしょ!

 とりあえず叫んでごまかしたけど、楓も美代も疑惑の目でこちらを見てくる。

「ねぇ、宙斗くん。飛鳥のどこが好きなの?」

    

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