キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 にっこりと笑って机に頬杖をつく美代の顔は、事情聴取をする刑事のようだった。私は冷や汗をかきながら、隣に座る宙斗くんをそろりと見上げる。

「俺は……」

 宙斗くんの視線が私に向けられて、至近距離で目が合った。真っ直ぐ向けられる彼の瞳は、私の心さえのぞいてしまいそうなほどに澄んでる。

 綺麗な瞳だな……なにを考えてるんだろう。こうして見つめ合うだけで、お互いの気持ちが伝わったらいいのに。

「俺は……そばいるだけで周りを笑顔にする、飛鳥の明るさを尊敬してる」

 え、そんなふうに思ってくれてたの?

 なんとなく、この言葉は偽装カップルだって疑われないためのとって付けたような嘘とは違う気がする。目を合わせることすら嫌がる宙斗くんが、ちゃんと私を見つめていることがなによりの証拠だ。

 そうやって彼の真意を導き出して、勝手に心臓が高鳴る。

 私も、宙斗くんのさりげない優しさが好きだよ。

「へぇ、お互いに相思相愛なんだ」

 顔をほころばせていると美代がふっと笑う。

 宙斗くんの今の言葉は、決して私と同じ好きの気持ちから出たものではないと思う。でも、今はそれでもいい。きみが嫌わないでいてくれるなら、少しでも私を怖がらないでいてくれるなら。

 そんなことを考えながら、私は宙斗くんを見つめていた。

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