キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
 自分の発言を思い返して蘇ってくるのは『私は宙斗くんのそういうところも含めて、好きだよ』と言った記憶。『好きだよ』の単語が頭の中でリフレインする。

「……わ、わわっ、私っ」

 なんてことを言ってくれたんだ!

 過去の自分に思わず怒りをぶつける。完全に無意識だった。どうしよう、思わず本音がこぼれてしまった。

「そ、そういう意味じゃなくて!」

 じゃあどういう意味だと、自分に突っ込みたくなる。なにか言わなくちゃと、焦って言葉を発したのがいけなかった。余計にその話題を掘り返して、どうするんだ。ここは別の話題に、すり替えるところだろう。

「とにかく、帰るぞ」

 腕に触れていたぬくもりが離れて、胸がキュッと締めつけられる。

 まだ、くっついていたかったな。

 いそいそと傘を広げた宙斗くんが私を振り返るのを、ほんの少し寂しい気持ちで見つめた。宙斗くんは焦れるように「ほら」と声をかけてくる。

「早く来いよ、飛鳥」

「あ、うん……」

 宙斗くんが私に触れられるようになっていること、自然に名前を呼んでくれるようになったこと。それがすべて、偽装カップルだからだと思うと胸が痛くなる。

 そうじゃないって思ってしまうことは、いけないこと?

 相合い傘で雨の中を歩く私たちの間に、会話はない。通学路である道路沿いの道を歩きながら、激しい雨音と車の走る音だけが響いていた。

    

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