キライが好きに変わったら、恋のリボン結んでね。
「昼休みのとき……」

 ふと、宙斗くんが沈黙を破った。無言で彼の横顔を見上げると、視線は進行方向に向いたままだった。

「ひどいこと言って、悪かった」

「え……」

「からかわれてつい、あんなことを言った。でもお前、笑ってたから……。泣くほど傷ついてるなんて、思ってもみなかったんだ」

 泣いてるの、見られちゃってたんだ。私が勝手に期待して泣いただけなのに、恥ずかしさと申し訳なさに胸が重苦しくなる。

「宙斗くんは悪くないよ」

「いや、本当に悪かった」

 迷子のような顔で、宙斗くんは私を見る。その気持ちを言葉にするまでに、どれほどの勇気を振り絞ったんだろう。それだけで、辛くてたまらなかった私の気持ちも報われる。

「じゃあ、仲直りしよう」

 傘の取っ手を握る宙斗くんの手に、私はそっと手を重ねる。彼はビクリと体を震わせたけれど、振り払うことはしなかった。思いきってよかったなと、私は顔をほころばせる。

「そっちの肩、濡れてるぞ。もっとこっちに来い」

「ふふっ、はーい」

 触れ合った手はそのままに、きみと歩く帰り道。きみとの距離感はまだつかめないし、近づきすぎて傷つくこともあるけれど、はっきりしていることがひとつだけある。

それは今日が、私のリボンが解けなかった貴重な日だってこと。



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