水性のピリオド.
はる。
雪で作った妖精は溶けてしまうけど、泥で作った怪物は崩れないんだ。
わたしがはるに別れようって言った理由は、そんなところだよ。
「……ごめんね、勝手で」
はるが納得出来るような材料くらいは用意しておくべきだった。
どこまでも自分本意で、そんな自分が嫌だと言うのならせめてはるとの付き合いには誠実であるべきだった。
突き放されても仕方のない手を、決して離さないように繋いでいてくれるはるの優しさが痛かった。
「ごめんね……」
大きな背中を腕の届く範囲いっぱいに抱きしめる。
隆起した背に触れていると、同じ人間を抱きしめているようには思えなかった。
ひょろ長くてぺろっと薄かった一年前とは大違いだ。
衣服の下の素肌に爪痕を残したこともあるけど、たぶんもう薄れて消えている。
くちびるを噛むと、わずかに血の味が滲んだ。
皮のめくれた部分に八重歯を立てると、なお濃くなる。
はるが納得できないこと、わかってるよ。
ずっと腕のなかで、はるの隣で、大人しく溺れていたわたしが急に暴れだして、突拍子もないことを言い出したようなものだ。
水性だとか油性だとか、理解できなくていいから。
「わかれよう、はる」
ゆっくりと背中に回した手を解くと、はるもわたしから少しずつ離れていった。
夜の向こう側に駆け出していったはるの顔は見えなかったけど、きっとまだ泣いていたんだろう。