水性のピリオド.
返信も、会うこともないまま、卒業する日を迎えた。
名前だけ園芸部にはあの日を境に顔を出すことすらしなくなったのに、校内ですれ違えば大塚先生はかならず声をかけてくれた。
卒業式を終えて、あとは帰るだけのわたしを呼び止めて、フリージアの咲く花壇に招待してくれた。
「卒業おめでとう。しまちゃん」
「ありがとうございます」
最後に大塚先生に会えたのは良かった。
ずっとカバンの中に入れていたものを渡せる。
「あの、これ」
「アルバム?」
これは、園芸部の活動記録としてのアルバムだ。
他意はない。部に寄贈するアルバムだから、はるの目に触れなくてもいい。
「これは……素敵な贈り物をありがとう」
ページをめくった大塚先生がしわくちゃの顔で笑った。
はると付き合っていた一年間のあいだのことを、大塚先生は知っている。
だから、わたしだけが園芸部に顔を出さなくなった意味もわかっているはずだ。
今更渡したアルバムに、付き合っていた一年の間に咲いた花の写真と、名前を書いた。
その花の写真にはどれも、大塚先生やはるが写っていて、わたしにはこれを自分のうちだけに秘めておくことができなかった。
本当に、今更だけど、はるとの時間がちゃんと大切だったことを覚えていてほしくて作ったアルバム。
本人に渡す意気地がないから、部の記録として、大塚先生に持っていてほしい。
最後にはると出会ったあの階段に向かおうと思っていたけど、アルバムを手放したカバンと手は拍子抜けするほど軽くて。
あんなに泣いていたくせに一度も会いに来ようとしなかったはるをほんの少し恨めしく思いながら、もう振り向くことはなかった。