さよなら、センセイ
「いや、これは美味ですな。
こんなうまい日本酒は初めてですよ、若月さん」

「じゃろ?
いやぁ、わかってくれる人に飲んでもらえてうれしいのぉ。
丹下さん、どんどんやって下さい。東京じゃなかなかこんな酒は飲めんじゃろ」

父親同士、酒を仲介して盛り上がり出す。

「丹下さんは、東京でどんなお仕事を?」
「私、会社をやっているんですよ」

久典は服のポケットから名刺を取り出す。
武二は、その名刺に印刷された《アリオン》の名にヒュウっと小さく息をのんだ。
それから、そばにあるテレビに刻まれたロゴと比べる。

「アリオン…まさか、いや、うちの娘がそげな立派な会社の息子さんと…?
バカな…おぅい、恵‼︎」

武二は恵を呼び、事実を確認する。
恵は素直に認めた。

「こりゃ、たまげた。
広宗さんみてぇな立派な方と、お前、どこで知りおうたが?」

武二の問いに恵は言い淀む。父の性格からして正直に答えれば激怒することは目に見えていた。
かといって嘘をつくわけにもいかない。



「元々は、自分の家庭教師として来ていただいてました」

言葉を濁らす恵に代わり、ヒロ自身が答えた。
< 97 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop