さよなら、センセイ
「何が、偶然じゃ。
お前がそれほどまでにバカな娘じゃとは思わなんだ。
お前も歩(あゆみ)と一緒か。
都会に目がくらんだか。呆れたわ。

丹下さん。こげん遠か所までいらして下さって、ほんにすみません。
娘にはキツく言っておきます。どうか、勘弁してやって下さい」

「いえ、若月さん、違うんです。
私達は恵さんと息子の交際は認めているんです。
確かに息子はまだ若いですが、息子にとって恵さんは、なくてはならない方。
いずれは結婚と考えています」

眞佐子が慌てて告げるが武二は、とんでもない、と首を横にふる。

「広宗さんが年頃になる頃にゃ恵も更に歳をとります。
恵のような田舎モンは、田舎モン同士、こっちで今のうちに嫁に行くのが一番なんです。
広宗さんのような立派な方のお相手なんぞ、分不相応にも程がある」

武二はそう言うと酒を一気にあおった。

「丹下さん。
せっかく遠くから足を運んでくださったが、見ておわかりじゃろ?
結婚まで考えて下さるならなおさら、家と家との繋がりは大切じゃ。
若月家には、丹下さんの望まれるようなものは何もねぇ。ただの田舎百姓じゃ。
すまんが、わしはこれ以外の生き方は出来んでの」

「いやいや、若月さんはご立派です。
素晴らしいお嬢様をお二人も育てあげたではないですか」

丹下久典が言うと、武二の眉間に深いシワが寄る。

「…丹下さんが恵の姉、歩の嫁ぎ先との繋がりをご希望なら、なおのこと無理じゃ。
歩は既に勘当した娘。嫁ぎ先なんぞ知りません。顔を合わせたことすらねぇ」


武二の言葉に、ヒロは思う。

恵の頑固なまでに真っ直ぐなところは、父親似だと。
久典の思惑を読み取る鋭さ。それに対する答えはあまりにストレートで、さすがの久典も言葉に詰まっていた。
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