お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

そうだ。そうだったのだ。
オードリー・オルコットはオルコット博士の妻だ。
ザックがオードリーと直接話すことはほとんどなく、ロザリーにばかり気が行っていたので全く気付かなかった。

「鉱石について詳しく調べたいときは、誰に聞くといいのかな。オルコット博士の後を継いでいる教授はどなたでしたっけ」

「鉱物学の後任は、ヒューズ博士ですね。ポルテスト学術院の図書館にも蔵書は残っています。でも実は一番蔵書が多いのは、オルコット子爵家ですよ。博士の妻は助手もしていまして、鉱物の分類や性質を細かくまとめていたそうです。私も見せてもらったことがありますが、大したものでした」

「へぇ?」

「実は……彼女を後妻にという話がありましてね。亡き友の妻を奪うのは気が引けますが、もう四年も経ちますし……。私も妻を亡くしてずいぶん経ちますのでね」

照れたように頭を掻きながら続くウィストン伯爵の話は、あまり頭に入ってこなかった。
予想外のつながりと、これまた予想外な話に、顔を取り繕うだけで精いっぱいだ。

(どうなってるんだよ、レイモンド。お前、彼女を捕まえたんじゃなかったのか)

ザックの心の叫びは、レイモンドに届くはずもない。

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