お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


ケネスとともにディラン先生のスパルタ教育を受けてかれこれ一週間。
つついたらすぐに抜けて行ってしまいそうではあるが、とりあえずひと通り本には目を通し、ディラン先生が毎日持ち込んでくる植物や鉱物の香りを頭に叩き込んだ。

「明日はいよいよカイラ様のところに行くからね。クロエ、お前も一緒に来るかい?」

ケネスは朗らかにクロエに声をかけたが、彼女はそっけなく首を振った。

「やめておきますわ」

「またそんなことを言う。父上は本当はずっと前から君にカイラ様の話し相手になってほしいと言っていたのに」

ケネスは柔らかい笑みを浮かべたまま、やんわり苦言を呈したが、クロエは動じない。
普段のケネスに対するときの猫なで声を封印し、竹を割ったようなはっきりした声で言った。

「私とカイラ様が合わないのは、お兄様だって感じていらっしゃるでしょう? 私のいい方もきついかもしれませんが、あの方は必要以上に傷つきすぎだと思います。一緒にいて怯えさせているようでは、病状を悪化させるだけです。行くだけ無駄ですわ」

ぷい、とそっぽを向いてクロエは自室へと行ってしまう。

「やれやれ。……まあクロエの言うことも正論だけどね」

ケネスは呆れたように、だが優し気にクロエを見送った。

「ご病気なんでしたね。夢遊病でしたっけ」
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