お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「たまに……だな。カイラの様子も気になってな」

「でもお会いにはならないんでしょう? どうしてですか?」

一度口に出したら、止まらなくなる。陛下に失礼だとは思うけれど、不思議で仕方ない。
そんなに心配しているなら、どうしてそれを伝えないのか。
イライラするのは、カイラがまだ陛下を想っていると、ロザリーには痛いほど分かるからだ。

「……私がカイラに会うことは、どの方面にもいい影響を与えない」

そう思うなら、報告を聞くだけでいいはずだ。

彼女の心を慰めるように、綺麗に整えられた内庭。まさか陛下が自分でそれを手入れしているなんて誰が思うだろう。
なのに、外側は全く手入れされず、まるで他人には、彼女は捨て置かれているとさえ思わせている。

「第一夫人の……マデリン様への影響を懸念されているのですか?」

陛下は黙ったままだった。
深く大きなため息。それは、深いうろを連想させた。彼の心の中にある、大きな埋められない穴。

「王太子の母親であるマデリンと離縁はできない。だがカイラも手放せない。カイラが心を壊すことになったのは、元はと言えば私が原因のだろう。守ると言ったのに、一つも守ってなどやれなかった」

後悔のにじむ声。それでもまだ、彼はカイラ妃を解放しようとはしない。
後ろ立てのない、政治には全く役に立たない妻を。

そしてすでに関係が途切れて久しいのにも関わらず、彼女の心を慰める花を手ずから植える。
誰にも気づかれないような時間に。

(……もしかしてこの人、めちゃくちゃ不器用な人なんじゃないのかな)

心の中がムズムズした。それは、ロザリーが今まで感じたことのないような感覚だ。
嬉しくて尻尾を振りたいような感覚とも、悲しくて耳のあたりがかゆい感覚とも違う。

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