お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
(……なんか、もどかしい。一国の国王様に思うことじゃないのかもしれないけど、はっきりしなくてイライラするっていうか。……回りくどくて面倒くさいというか。単純に好きという感情だけで動ける立場の人でないのはわかっているけど)
ハッピーエンドのその先にある、想い合うがゆえの決裂。
ロザリーには、頭では理解できても感情がついていかない。
「……カイラ様はずいぶんお元気になられました」
「そう聞いている。そなたのおかげだろう」
「私だけじゃありません。ザック……アイザック様と仲直りされたこともありますし。……なにより、この庭がカイラ様をずっと癒してくれています」
ピクリと、怯えたように陛下の手が動く。
「冬咲きのクレマチスが好きだと教えてくれました。私が来る前から、カイラ様の寂しさを慰めていたのは、この花々たちです」
陛下は黙ったままだ。ロザリーは拳を握り締めて、もう一言付け足した。
「陛下は、カイラ様に会いたくはないんですか?」
ここまで様子を確認しに来ているのだ。
会いたくないわけがない。それでも、敢えて確認したかった。
驚いたようにウィンズがひゅうと息をのむ。ロザリーも声が震えているのが自分で分かった。
国王に進言するなど恐れ多いことだ。
しばし眉に皺を刻んでロザリーを睨んでいたナサニエルは、やがて深いため息を吐き出した。
「……それを私に言うのは無礼だということは知っているのかな?」
「申し訳ございません。でも」
「なるほど、肝は据わっているようだ」
ナサニエルは立ち上がり、ウィンズに手ぶりをする。