お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「いや、ロザリー嬢を目立たせるわけにいかない。何のための夜会か分かっているだろう? 君を狙う犯人がいるかもしれない夜会で、ロザリー嬢を君の相手と認識されるのはまずい。いつも通り、君の相手はクロエに頼もう。ロザリー嬢は俺がエスコートする」
クロエとザックはかつて縁談もあった間柄だ。双方その気はないということも公言しているが、今でも一緒に出席する夜会は多い。
「だからってなんでお前が相手なんだ」
ザックは不満そうだ。
「でも、そのほうがいいですよ。ザック様」
「ロザリーまでそんなことを言うのか」
「私がノーマークになっているほうが、オードリーさんやレイモンドさんと連絡を取るのに都合がいいと思うんです。ザック様と居れば、どうしたって注目されてしまいますし」
「それはそうだが。……ちょっとロザリーこっち」
手招きされ、困り果ててケネスを見る。彼は苦笑したまま「行っておいで。拗ねてるだけだよ」と口添えする。
(拗ねてるって、どうして?)
ロザリーがとてとてとついていくと、彼は内庭の木陰で、彼女の肩に頭を乗せる。
「……会いたかったんだ。なのにケネスとばかり話されてはおもしろくない」
素直に自分の気持ちを言葉にする彼に、ロザリーの心臓がぎゅんぎゅん絞られていく。
「私も、会いたかったですよ」
「……そう?」
国王様は、本当はカイラ様をずっと思っています。あなたのことも、と言いたくて言えない。
胸に靄がかかるようで、ロザリーの笑顔はその日一日中ぎこちないままだった。