お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


その日、料理の采配を任されたレイモンドは、昨晩からほとんど寝ないで仕込みをしていた。
ようやくオードリーに会えると思うと、心が浮き立つのを止められない。

主菜は一晩たれに漬け込んだチキンの照りやき、赤ワインで作ったソースを絡めたローストビーフ。
副菜として、温野菜の彩サラダとポテトサラダ、ポテトチーズガレット、サーモンのラザニア、
サンドイッチとスタッフドバゲットに、オニオンスープ。
デザートはシフォンケーキとチョコレートムースだ。

もちろん、伯爵家の料理人たちは総出でこの料理作成を手伝っている。
新参者であるレイモンドが、メニュー作成を任されるのは非常に珍しいことで、当然やっかみなども懸念されるところではあるが、そこに事情があることは、ケネスがさりげなく伝えてくれているらしい。
レイモンドが毎日のように会いに行っては追い返されている恋しい女を取り戻すための夜会だと知らされた料理人たちは、それまでの苦労を目の当たりにしていたことから、みんな我が事のように親身になってくれた。

「でも、もしそれで女を取り戻せたら、本気で帰っちゃうのか? レイモンド。お前なら、どの屋敷でも雇いたがると思うけどな」

「俺の夢は、好きな人とあの店を守っていくことです。親父がずっと守ってきた店ですしね」

「でもその親父さんとも血は繋がってないんだろ?」

「それもケネス様が教えたんですか?」

予想以上に事情通な先輩に驚いたレイモンドは、改めて切り株亭のことを思い出す。

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