お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


夜会の日、ロザリーは迎えに来てくれたケネスと一緒に、離宮を出た。
ドレスはカイラの見立てである。髪も化粧も丁寧に施し、「これ以上かわいい子はいないわ」と太鼓判を押されて出てきた。

「今日は特別可愛らしいね。ロザリー嬢。先に俺が拝んだと知ったら、ザックが機嫌悪くするなぁ」

ザックは王城から直接イートン伯爵邸に向かうことになっている。
隠し事をしているせいで、どこかぎこちなくなってしまっているロザリーは、ほんの少しだけホッとしていた。

やがてイートン伯爵の屋敷につく。馬車を止める場所がそれほど多くないので、基本は送ってきた馬車は一度離れた場所で待機となる。次々入れ替わる馬車で、屋敷の前はごった返していた。
ロザリーたちもその列に並び、順番になったところで降りる。

「さあ、お手をどうぞ」

ケネスのエスコートに、ロザリーははにかみながらも手を取った。
既に来ている招待客たちが、微笑ましいふたりを見て頬を緩める。

「あら、ケネス様。いつの間にご婚約なされたの?」

「残念ながら、婚約者ではないのですよ。うちで預かっているロザリンド嬢です。可愛いでしょう?」

邪推する人たちに断りを入れながら、会場となる広間へと向かっていく。
そこには、正装でクロエと話し合っているザックの姿があった。
ロザリーはかしこまった声で、うやうやしく挨拶をする。

「お久しぶりでございます。アイザック王子殿下。本日はお姿を拝見でき、光栄でございます」

「やあ、ロザリンド嬢。今日は一段と可愛らしい」

「お久しぶりね、ロザリンドさん」

「クロエ様もお元気そうでなによりです」

他人行儀な挨拶をして、ロザリーはその場を辞す。
主催者であるイートン伯爵と訪問客の中で一番身分の高いアイザック王子は、次々と訪れる客の挨拶に対応しないといけないのだ。
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