お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
ロザリーの胸に不信感がむくむくと沸き上がる。

「オードリーさんも、慣れない屋敷で不安だと思います。どうか戻って差し上げては」

「そうですね。お気を使わせて申し訳ない。クリスも一緒に行こうか?」

差し出された手に、クリスは首を横に振った。

「クリスさんは、私がお誘いしたんです。子供にこそ探検が必要だと思って」

「そうでしたか。ではロザリンド殿、申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」

ウェストン伯爵は、クリスに視線を贈ることもなく広間の方向へ向かって歩き出した。
クリスは黙ったまま、ロザリーを握る手に力を籠める。

「クリス、あの人やだ……」

「……ええ」

「おじいちゃんもおばあちゃんもあの人も、良くしてくれるけど、それだけなの。ママのこともクリスのこともちゃんと見てくれない」

クリスに目線を合わせようともしない。心配しているようなことを言いながら、何ひとつクリスのことなど考えていないのは、傍目で見ているロザリーにも分かる。

「行きましょう、クリスさん、こっちです」

「うん」

クリスの声に、熱がこもる。
クリスはきっと、ずっと探しているのだ。自分をちゃんと愛してくれる人、自分をちゃんと見てくれる人。
裕福な子爵家に生まれ、不自由なく暮らしているにもかかわらず、クリスの瞳はいつだって本物の愛情を探している。
ロザリーは父母にも祖父母にも愛されて育った。だから、クリスが抱える不安は、本当には理解できない。分かるのは、彼女が安心できる環境を求めているということだけだ。

「私はクリスさん、大好きですよ。微力かもしれませんが、力になりたいんです」

「……ありがとう、ロザリーちゃん」

温かい手を握りしめながら、ロザリーは強く願う。

(ああどうか。この子が幸せになれますように)
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