お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
廊下にも招待客の一部は流れていた。
その間を、給仕の青年たちが申し訳なさそうに通っていく。広間からの音楽は徐々に遠ざかり、厨房への角を曲がると、客よりも使用人の方が多くなってきた。
「あ、失礼。……と、クリスじゃないか」
クリスもロザリーも身長が低いので、普通に歩いていると対面を歩く人の顔がよく見えていない。
顔を上げて、それがウィストン伯爵だと気づいて、ロザリーは思わず息を止めた。クリスもつないだ手に伝わるくらいに体をびくつかせる。
「おじさん……」
「おいおい、おじさんはないだろう。いずれ君の父親になるんだから。すみませんね、お嬢さん。クリスが迷惑をかけておりませんか?」
クリスのことを簡単にあしらい、ウィストン伯爵はロザリーに向き直った。
先ほど、ケネスがイートン伯爵家で面倒を見ている令嬢だと紹介したからか、ロザリーに対しては敬意をみせる。
「クリスさんはとてもいい子ですわ。それより、オードリーさんはどうされたんですか?」
「ああ。今はオルコット夫妻と広間で食事をいただいているんじゃないかな。私は少し散歩をさせてもらっていました。イートン伯爵家を訪問するのは初めてなもので」
「……そうなんですか」
「見事な調度品ですね。あのツボも、あの絵画も名のある人物の作でしょう」
それらを見たかったのだとしても、一緒に来たパートナーを放っておくだろうか。いくら両親もいるとはいえ、オードリーにとって彼らは実の親ではないのに。