お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
そして六年が経ち、今から五年前。サイラスが造幣局局長へと就任すると、ジェイコブは彼を呼び出して言った。

『サイラス、お前、かつて私が採掘した跡を荒らしただろう』

それが、輝安鉱のことを言っているのは直ぐに分かった。サイラスにとって、あれは忘れたい出来事だ。
造幣局で安定した立場を手に入れた今、危ない橋を渡る必要はない。
が、ジェイコブがそれを許さなかった。

『輝安鉱を使って稼ぐいい方法を思いついたんだ。お前ものるだろう? 断ったりするわけないよな』

ジェイコブはサイラスに断る隙を与えなかった。
次々と漏らされた計画は、それこそ、サイラスから血の気を奪うようなものだった。

輝安鉱を“銀貨”として隣国へ流そうというのだ。

『無理だ。輝安鉱は硬貨にするには硬度が足りなさすぎる。それに、作業する人間の危険性も伴う』

『では合金にすればいいだろう。あとはあっちで製錬してもらえばいい。隣国の造幣局に知り合いがいるんだ。この話をしたら、食いついてきた。最も足のつかない販売ルートだと思わないか?』

鉱物馬鹿である彼は、自分の研究費をねん出することだけを目標としていた。最近、助手をしていた妻をやめさせ、家庭を守らせることにしたというから、新たな助手を雇う金も必要だったのだろう。
学術院で割り当てられる研究費だけでは足りない、というのは、どの学問の教授でも感じていることだ。

『だが、いくら俺が局長でも、そんな誤魔化しができるわけがない。材料だって……』
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