お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
『輝安鉱は俺が準備する。それによって余る銀は金貨作成の配合率を変えればバレはしないだろう。それによって浮いてきた金は報酬や口止め料として流用すればいい。まさか断る気じゃないよな。あのときの輝安鉱。お前がどうしたかなんて調べればすぐわかるんだぞ?』
『お前だって……あれを採掘して一体何に使ったんだ』
『それを知ったらお前、殺されてしまうよ。俺はあの時、ちゃんと後ろ盾があってあの採掘をした』
彼の裏にいた人物は教えてはもらえなかった。
だが、ジェイコブの自信が、サイラスには怖かった。もし本当に権力者がジェイコブの後ろにいるのだとすれば、全てを暴露したところで自分だけが罰せられるどころか、全ての罪をかぶせられるかもしれない。
結局、一度でも手を染めてしまった人間に、選択肢などない。
だが、通常の硬貨作成でそんなことをすれば、すぐさま局員にすべてバレてしまう。
サイラスが目を付けたのは、五年後の国王の在位三十周年記念行事の一環として作られる予定の記念硬貨だ。それの金属配合を研究するためと言えば、ごく少人数でのチームを立ち上げられる。
輝安鉱入りの銀貨や、銀の配合の多い通常の金貨など、不正に利用されたものはほとんどこのチームでつくられた。
悪事の本拠地が造幣局に決まったとき、ジェイコブは自分がやがて弾かれることを恐れ、情報は自分が出したという念書を持ってきた。
鉱物馬鹿であるがゆえに金の亡者となっていた友人は、やがて要求をどんどん増やしていく。
自分の情報が無ければそもそもこの金は稼げない。売りさばく相手までも見つけてきているのだからと、どんどん取り分を要求してくる。