お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「今のところ順調だね」
ロザリーとザックの間に皿を割り込ませて入ってくるのはケネスだ。
眉間に皺を寄せているのは、『馴れ馴れしくしすぎだよ』ということなのだろう。
「どの参加者も料理には満足しているようだ。田舎に返すなどもったいないと言ってね。後でレイモンドに挨拶をさせるつもりでいるんだ」
レイモンドの料理はアイビーヒルで味わったときと変わらず、いや、……食材がよくなった分、以前よりもずっとおいしくなっている。
レイモンドが作ったなどと知らないオルコット夫妻も、感心しきりで料理に夢中だ。こうなれば、レイモンドが庶民だというだけで、ないがしろにはできないはずだ。
なにせ今の彼は、上流貴族がこぞってその腕を欲しがる料理人なのだから。
ついでに、ウィストン伯爵がここでなにかしでかせば、当然オードリーとの縁談も破談だ。オルコット子爵夫妻は、レイモンドとの再婚を認めざるを得ないだろう。
「だが、なかなか仕掛けてこないな。まあ、俺も無理に何かされたいわけじゃないが」
ウィストン伯爵は思いの外、慎重な質らしい。ザックに何度か話かけにはくるが、今のところそれだけだ。
しばらくして、女性の人波が去ると、ウィストン伯爵はクリスを連れ、デザートを取りに向かった。