お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
そしてクリスに銀の皿をもたせて、ザックのいるテーブルへとやって来る。

「あの、デザートをどうぞ」

ウィストン伯爵にそうしろと言われたのか、何度か彼の方をちらりと見ながら、困ったように皿を掲げる。

「ああ、ありがとう」

ザックは軽く身を屈めてそれを受け取った。

「申し訳ありません。どうしてもアイザック王子に渡したいと言いましてね。女の子というのは小さくとも王子様に憧れるものなのでしょうなぁ」

ウィストン伯爵はそう言って笑うが、クリスは終始困ったようにうつむいている。
近くにいるロザリーがさりげなく皿のにおいを嗅いだ。そしてザックに目配せする。
これは食べない方がいいのだろうな、と思ったが、クリスから受け取った手前、食べないのもかわいそうな気がしてくる。

ザックは渋々フォークを手に取り、乗せられたケーキを小さく切った。
だが食べはせず、「おいしそうだね。君はたべたのかい?」とクリスにいい、ちらりとロザリーに視線を送る。

「あ、そうですね。クリスさんも無くなっちゃう前に食べませんと。ふたつよそって……お母様のところに行きましょうか。私、お手伝いします」

ロザリーはザックの意図をくみ取り、クリスをオードリーのもとへと返してくれた。
これで一安心だ。ザックはウィストン伯爵をテラスへと誘った。話をつけるにしても、人が少ないところの方がいい。
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