お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


ロザリーが広間に戻ってきて、クリスをオードリーのもとへ帰したあと、ケネスの隣に立つのを、ザックは少し白んだ気持ちで見つめた。

自分が狙われているという状況じゃなければ、彼女をエスコートするのは自分だったと思うと、何となく腹だたしいのだ。

隣にはクロエがいる。クロエは見た目こそ美しく楚々としているが、その実気が強く極度のブラコンだ。
ケネスがザックを弟のように思い、なにかと気にかけてくれることを最も不満に思っているのは彼女であり、ザックは彼女に世界で一番嫌われている自信がある。

「ロザリーが戻ってまいりましたわね。これでやっと食べられます」

クロエはホッとしたように笑い、ロザリーを手招きする。

「アイザック様が食べないのに食べるわけにもいかないし……。生殺しでしたわ」

そう言いながらひょいひょいと皿に盛っていくクロエの脇で、ロザリーも銀の皿に料理を取り分ける。
小さく鼻で息を吸い込みながら、料理や皿についた匂いを検分し、それがイートン伯爵家の使用人のものだけだと分かったものだけを、ザックに渡してくれた。

「ありがとう」

「……!」

受け取るときに、ザックはわざと彼女の手に触れた。
驚いたロザリーが慌てて手を離したので、危うく皿を落とすところだった。

「す、すみません」

「君が謝ることはないよ。ワザとだ」

何せスキンシップが足りないのである。ザックも正常なる成人男子であり、好きな子には触れたいし、独占したいのだ。いくら兄のように思っているケネスが相手であろうとも、本当はパートナーの座を渡したくはなかった。
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