お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「そこまでやるか? オードリーは彼らの娘なわけじゃないんだぞ? そりゃ息子が死んだのは気の毒だけど、いつまでもオードリーを縛る権利は、彼らにはないだろう」

レイモンドの怒りはもっともだ。
この時代、女の立場は弱い。家柄だったり夫の立場だったり、そういったものに左右される。
だから、夫が死んだ後も夫の実家の庇護を受けられるオードリーはある意味で幸せだと言えるだろう。しかし、再婚するとなれば、元の婚家とは他人になるのだから、彼らに口出しする資格などないはずだ。
オードリーだって、元の婚家とは決別する覚悟をもって再婚を言い出したはずだが。

「……決めた。手紙を書く。ランディ、しばらくかまどを見ていてくれ」

「ああ、いいけど。その調子でオードリーに手紙が届くとは思えないんじゃないか?」

「オードリー宛じゃない。隣町に行った両親に書くんだ。いい加減、帰ってこいとな。父がいれば、俺がしばらく店を開けても何とかなるだろう?」

レイモンドの発言に、チェルシーもランディも驚いて前のめりになる。

「まさか」

「そうだ。オードリーを迎えに行く」

決然と言い放ったレイモンドに、さすがにチェルシーは悲しそうな顔をしたが、それは一瞬のことだった。

「かっこいい。そうでなくちゃ、レイモンド」

にっこり笑って見せたチェルシーは相変わらず男前で、ロザリーとランディがひそかにときめいてしまったのは内緒だ。

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