お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
ふふ、と笑っているとレイモンドは照れたようにそっぽを向く。そんなテレ具合もなんだか可愛らしく思えてしまう。
「つい余計なことまでしゃべっちまった。……お、だいぶ王都に近づいてきたぞ」
馬車の窓から見える景色が変わっていた。
街から街への距離が、だんだん近くなっていき、街自体の規模も大きくなってきた。街道を通る馬車も一気に増え、楽団らしき一団が笛を吹きながら歩いている。
「見ろ、ロザリー。あれが王都だ」
ロザリーは窓から顔を出した。石造りの荘厳な城とそれを守るように築かれた堅牢な城壁。空に向かった伸びた尖塔を持つ大聖堂に、横並びに立ち並ぶたくさんの店。それと、同じようなつくりだが、様々な屋根の色をした建物が、がたくさん建ち並んでいた。
「わぁ。カラフルです!」
「とりあえず宿を取ろうと思う。そのあとは別行動でもいいか? 俺はオードリーに会いに行く」
「はい! 私も街を巡ってみます」
「女の一人歩きは危ないから、必ず夕方までに帰って来るんだぞ」
保護者のようにたしなめられた。たしかに、今考えれば、アイビーヒルにひとりで来たのも無謀だったかもしれない。それが今度は王都だ。ルイス男爵邸にいる祖父に知られたら、ひとしきり怒られることだろう。
それでも、便りのないザックをただアイビーヒルで待っているのは嫌だった。会えないまでも、王都ならば王子様の情報は入手しやすいんじゃないかと思うのだ。
レイモンドとロザリーは、街の南端にある安宿にそれぞれ一部屋ずつ取り、レイモンドはそれからすぐに出かけて行ってしまった。